DVD名画劇場 反逆児エルビス!50年代のプレスリー映画

「やさしく愛して」  1956年   ロバート・D・ウエッブ監督    20世紀フォックス

エルビス・プレスリーは、1934年ミシシッピー州テュペロという町のイーストサイド(『白人のクズのたまり場』と呼ばれた貧民街)に生まれた。

エルビスが生まれ育ったミシシッピー州は、南北戦争では南軍の勢力下にあり、北軍の攻撃によって何度も焦土と化した歴史を持つ。
その後、主要産業の綿花栽培が30年代になって害虫により衰退し、世界恐慌の影響をもろに受け、ルーズベルトのニューデイール政策による恩恵を受ける最初の州となった。

定職を持たぬエルビスの父親は、小作人家庭の出身で、妻(エルビスの母)との間に9人の子を設けた。
エルビスの母も小作人家庭の出身で、曾祖母がチェロキーインデイアン、祖母がユダヤ系移民という家系だった。

キリスト教根本主義の牙城だったミシシッピー州の教会に両親とともに通いながら音楽に親しんでいったエルビスは、小学校に上がるとギターをプレゼントされ、級友たちの前で演奏して人気を博していた。
このころ家族ともどもテネシー州メンフィスへ引っ越す。

54年にメンフィスで見いだされたエルビスは、ラジオで流された曲にリクエストが殺到し、発売したレコードも大ヒット。
黒人音楽に影響されたロックという音楽を歌い踊る白人歌手として若者に圧倒的な人気を誇った。

本作「やさしく愛して」は、エルビスが世に出てから2年後に出演した西部劇。
まだまだ全米では海のものとも山のものともつかぬ田舎で人気の歌手のエルビスは、モノクロ作品の重要なわき役としてキャスティングされている。

舞台は南北戦争が終結した南軍の支配地だった田舎。
前線で終戦を知った南軍の小隊が北軍の給料を運ぶ列車を強盗する。
彼等は奪った金を山分けして小隊を解散し、各々故郷へ戻る。
この部分の語りだけで約30分。
プレスリーは出てこない。
入れたDVDを間違えたかなと思い、取り出すが間違えてはいない。

南軍の小隊長だった主人公が故郷に戻る。
末の弟が馬で畑を耕している。
プレスリーがいた。

敗残の南軍兵士の無聊。
勢いを増し旧南軍に詰め寄る北軍の無慈悲。
故郷に残した老いた母と、主人公が出征前に結婚を約束した恋人の今の姿。
などが情感たっぷりに描かれる。
死んだと思った兄の代わりに末弟(プレスリー)が、兄の恋人と結婚していたのだった。

プレスリーと妻役のデブラ・バシェット

追跡する北軍の疾走感。
小隊仲間の裏切りというジレンマ。
仲の良かった兄弟が一人の女性を巡って対立する骨肉の悲劇。

エルビスは「ラブミーテンダー」を夕暮れのテラスで家族に情感たっぷりに歌い、芝居では俊敏な動きと激烈な感情の噴出を見せる。
その演技は、家のためにおとなしく働く末弟の健気な姿であり、去勢されていない若い野生動物のようでもあり、慕っていた兄に裏切られたといきり立つ狂犬のようでもある。

監督の演出スタイルは、南北戦争の背景の庶民の悲劇の情感表現であり、精悍な西部劇のスピード豊かな疾走感の再現であり、新人俳優への眼差し豊かな売り出しでもある。
どの部分もそこそこに成功している作品である。

55年に歌手エルビスのマネージャーとなっていた、音楽業界のメジャー、RCAレコードのトム・パーカーのプロデュースは、テレビを使ってエルビスを全米に売り出すことだった。
有名音楽番組で高視聴率を稼いだエルビスは全米の人気者となり、ハリウッドに進出。
パラマウントと7本の出演契約を結んだ後の映画出演第一作が本作「やさしく愛して」だった。
56年11月に公開された本作は、3週間で製作費を回収するヒットとなった。



「監獄ロック」   1957年   リチャード・ソープ監督    MGM

エルビスの自伝的要素を色濃く盛り込んだドラマ。
モノクロで撮られているのは、エルビスが全米に人気スターとしての信用がまだなかったからだろう。

重機のオペレーターで、給料日のクラブ通いが楽しみのエルビスが喧嘩で刑務所入り。
要領が悪く刑務所内では冷や飯組。
夢は出所後のクラブ経営のエルビスは、なけなしのポケットマネーで手に入れたギターを手に、飛び入りで歌ったところを、偶然見ていた業界関係者の女性ペギーに声をかけられる。
ショービジネスの世界に翻弄されながらも、ペギーのマネージングでレコードがヒット、人気歌手になる。
ペギーと設立したレコード会社を手放し、ハリウッドスターに蔵替えしたエルビスは美女たちとウハウハ。
さて仕事ではたもとを分かったペギーとの関係は?

常に与太ったようなしぐさと、貧乏ゆすりにダルそうな口ぶり。
気に入らないと瞬間湯沸かし器で、無礼な客にギターをたたきつけ、ペギーの実家のパーテイでは中流家庭の教養にひがんで飛び出す。

映画での若き日のエルビスは、実際の姿をモチーフとしてはいるが、育ちの悪さとステージ上の激しい動き(映画では下半身の動きをセーブしているが)だけが持ち味ではなかったようだ。
母親のしつけの元、目上の人には「イエスサー」、女性に対しては「イエスマム」と答えるなどの言葉使いが身についた礼儀正しさは、終生エルビスという人間の評価にもつながったという。

敏腕女性マネージャー・ペギー(ジュデイ・タイラー)がいい。
モデルはマリオン・カイスカー。
1953年に、エルビスがおずおずと自分の歌の録音に訪れたサンレコードの共同経営者だった。

ペギー役のジュデイ・タイラーと

マリオンは録音に来たエルビスの歌を聞いて、この青年こそが『二グロのように歌える(白人の)男がいたら一儲けできる』(サンレコードの経営者サム・フィリップスの口癖)人物だということが分かった。

54年、最大の理解者であるマリオンがサンレコードをやめ、空軍に入隊した。
映画ではマリオン役のジュデイ・タイラーの出番が、エルビスの売り出しとともに急に少なくなったが、こういった史実的背景があったようだ。

単なる成功物語ではなく、売れない歌手のみじめさ、ショービジネスの裏側が描かれている。
若きエルビスの自分自身を彷彿とさせる、貧乏ゆすり、みじめったらしいひがみの表情、それでいて愛嬌のある親しみのキャラ。
その姿は『反逆児』というよりは、大人の価値観には相いれなかったが、田舎の貧しいが可愛げのあるあんちゃんが、おなじく田舎の若者・少女たちを熱気に巻き込んだ時代の寵児、そのものであった。

監督は長くハリウッドで便利屋的に、ジェリー・ルイスの底抜けシリーズなどを作ったリチャード・ソープが起用された。
ソープの起用はMGMのA級作品として本作が企画・製作されたことを示す。



「G・I・ブルース」  1960年   ノーマン・タウログ監督   パラマウント

1958年テキサスの訓練基地に入隊したエルビスは、西ドイツに赴任、60年まで軍務についた。
本作は退役後に作られた第一作。

50年代のロックな田舎青年としての存在から、模範的な米国の若者として方針転換(本来の役どころに目覚めた)したエルビスが繰り広げる軍隊コメデイ。
全体的には、コメデイだが、随所に敗戦国ドイツ(イタリアも)の現実や、駐留GIの名もない庶民性を表すエピソードやセリフが出てくるところは、戦後15年しかたっていない時代性が感じられる。

駐独米軍の戦車兵エルビスの楽しみは地元のクラブでの演奏とシャンなメッチェン(とのイチャイチャ)と賭け事。
駐留先のクラブで歌うエルビスは、さりげなく『美人のドイツ娘』の表現に『ハン』というドイツ人の蔑称を使ったりする。
これは当時のアメリカ人がドイツ人を称する普通のスラングなのだろうが、映画であえて出すのは、敗戦国ドイツのみじめさ、占領政策の現実の表現なのか。

エルビス(が演じるGI)が自分の出自を、父親はタクシーの運転手、祖母はチェロキーインデイアン、とガールフレンドに告白する場面もある。
事実、エルビスの母の曽祖母がチェロキーインデアンだったというのは既述の通り。
ここら辺は、楽屋落ちというか露悪的な趣味を持つハリウッド流のシナリオ作法でもあるが、あるいはGIといってもアメリカでは庶民中の庶民、敗戦国の庶民とは同じ穴のムジナという意味もあるのか。

歌姫リリー(ジュリエット・ブラウズ)は踊りが素晴らしい。
気骨あるドイツ女を演じる。
エルビスがいつもどおり「ハニー」、「イエスマム」と呼ぶとそれを嫌う。
GIによる女性に対するアメリカ流の礼儀がドイツ女性には嫌味に感じられるものなのか。
この女優はネットでも情報が出てこないので詳細不明。
美人ではないが芸達者、ぴったりのキャステイングだった。

ケルンとデュッセルドルフ間の船旅とライン川沿いの観光地でデートシーンもあり、ドイツの観光地紹介という使命を持つのも、後の「万歳」シリーズなど、若大将時代のプレスリー映画そのもの。

全編英語で繰り広げられるのもハリウッド流。
クラブでリリーが無礼な太客にビールをぶっかけた後、ボーイが太客を取りなす場面と、後半のライン川の観光地での人形劇のセリフだけがドイツ語だった。

エルビスの歌のシーンは激しい脚の動きはなく、挑発的な気配はない。
観光地で人形劇に飛び入りし、人形相手に歌って子供たちに大うけするシーンなどに、お人よしのアメリカ人そのもののエルビスの持ち味が出ている。
女にもてるセクシーさというより、人柄の良さで万人に親しまれるエルビスの個性が生きている。

軍務を終え、全米の大人世代からの承認を受けたエルビスが、『反逆児』の時代を終え、『若大将』として映画スターの道を歩み始める第一作。

実生活でも、マネージャーのトムパーカーの戦略は、61年以降の7年間、エルビスの活動を映画出演と、映画で歌われたもののレコード化に限定するというものだった。

「エルヴィス・プレスリー世界を変えた男」   文春新書

本文中の、映画内容以外のプレスリーのエピソードは、平成11年文春新書 東理夫著 「エルヴィ・スプレスリー世界を変えた男」から要約引用しています。

投稿者: 定年おじさん

1956年北海道生まれ。2017年に会社を退職。縁あって、長野の山小屋で単身暮らしを開始。畑作り、薪割り、保存食づくり、山小屋のメンテナンスが日課。田舎暮らしの中で、60歳代の生きがい、生計、家族関係などの問題について考える。60歳代になって人生に新しい地平は広がるのか?ご同輩世代、若い世代の参加(ご意見、ご考察のコメント)を待つ。

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