DVD名画劇場 ジーン・セバーグの「悲しみよこんにちは」

ジーン・アーサーに続いてはジーン・セバーグが登場するDVD名画劇場。
セバーグの映画デビュー第2作目の「悲しみよこんにちは」です。

「悲しみよこんにちは」1957年 コロンビア オットー・プレミンジャー監督

同作DVDパッケージの表紙

原作は18歳でこの小説を発表したフランソワーズ・サガン。

南仏リビエラでの父と娘と愛人の楽しい日々。
そこにかつて父と縁があったデザイナーが現れ、父と婚約。
とたんに娘にとって婚約者は、父を奪った異性でかつ、口やかましい新しい母的存在となる。
婚約者に反抗し、父の浮気の現場を見せつけるなどして婚約者を追い出す娘・・・。

DVDパッケージ裏面

原作者の分身ともいえる娘に当時19歳のジーン・セバーグ。
事業があたりブルジョワ暮らしをしながら、いつまでも若い女を渡り歩く父にデビッド・ニブン。
婚約者にデボラ・カー。
娘とも仲の良い父の若い愛人にミレーヌ・ドモンジョ。

リビエラの別荘地での過去の楽しい日々。
カラーで描かれ、セバーグは最初は赤、次に青、最後は黄色の水着で現れる。

水着でないときには活動的なショートパンツ姿。
ベリーショートカットに細身のシルエット。
父とキスし、動き回り、海に飛び込み、ボーイフレンドと戯れる。
若さとエネルギーが発散する。

オフショット。赤い水着姿ということは前半部分の撮影時のものか

劇中、19歳のセバーグが、主人公の若い衝動、婚約者への反発心、日常の倦怠、父へのアンビバレントな感情、などを一生懸命表現しようとする。
時に輝きを伴い、時に達者な演技力で、また時に痛々しくも。

デビッド・ニブンは適役過ぎて、製作者サイドはこの父親というキャラクターを軽視し(戯画化し)ているんじゃないか、と思うほど。
デボラ・カーもしかり。
わざわざ名のある彼らを持ってこなくとも、あるいは無名の実力は俳優を持ってくれば、戯画化を避けてよりシリアスなものになっていたのに、と思いもするが、監督のプレミンジャーには商業的な意図もあったのだろう。
というかそれが第一なのだろう。

父(デビッド・ニブン)とはとても仲良しだが・・・

19歳のセバーグは商業目的のこの作品で唯一、与えられたキャラクターの自分なりの表現に取り組み、作り物ではない存在感を得た。

映画の冒頭と最後に描かれる、父と娘の現在のシーン。
モノクロで描かれるそこには、倦怠にまみれ、底知れぬ絶望感にさいなまれる〈その後〉の主人公の姿が描かれる。

カラーで描かれたリビエラでのはつらつとした水着姿のセバーグと同一人物か?と思わせる黒のドレス姿。
これを演じ分けたセバーグを称賛したい。

この作品により、「カイエ・デュ・シネマ」誌の表紙を飾ったセバーグはフランソワ・トリュフォーにこう評された。
「ジーンがスクリーンに映っているときはいつでもスクリーンから目を離すことはできない。彼女の動きすべてが優雅で、まなざしは的確。頭の形、シルエット、歩く姿、すべてが完璧だ。スクリーンでこのような魅せ方をする女優ははじめてである。」(ギャリ・マッギー著、石崎一樹訳「ジーン・セバーグ」83P)と。

ジャン=リュック・ゴダールは長編第一作の「勝手にしやがれ」を作るにあたり、主人公のパトリシアを「悲しみよこんにちは」の主人公セシルの3年後の姿と想定して形作った。
パトリシア役には、「悲しみよこんにちは」でセシルを演じたジーン・セバーグをキャステイングした。

番外) 「大空港」 1970年 ジョージ・シートン監督 ユニバーサル

70年代らしいミニスカートの制服姿で、当時30代に入ったばかりのジーン・セバーグが登場する。

ベストセラーの原作をバート・ランカスター、デイーン・マーチンらのオールスターで映画化した大作。
ジーン・セバーグは三番目にクレジットされ、ギャラは15万ドルだったという。

ジーンの役柄は空港に駐在する航空会社の現場責任者。
空港長のランカスターと歩調を合わせ、日常的に起こる様々な出来事に対応してゆく。

ハリウッドが斜陽を迎えてからしばらくたち、過去のタイクーンたちはとっくに去り、映画はオフハリウッドや低予算の独立プロ作品などに多様化していた時代。
70ミリ、トッドAO方式、2時間尺の「大空港」はハリウッドが事態の打開を模索していた中での(おそらくもっともイージーな)トライアルの一つだったと思われる。

多様な登場人物を手際よく、テンポよく描く。
古い技法である画面のワイプも、スピード感に寄与している。
ヘレン・ヘイズのキセルばあさんや、モーリン・ステープルトンの爆弾犯の妻など、わき役も芸達者。
ここら辺にハリウッドメジャーの職人芸が受け継がれている。

ストーリーの味付けには70年代らしく、夫婦間の問題だったり、空港の騒音問題に対する市民運動だったりも加味されているが、全編を通して描かれるのは、仕事に取り組む人々の姿。
社会への疑問や、心理的不安などなく、目の前の障害に取り組み、解決してゆく職業人の姿に、まだまだ社会が健全だった(健全であろうとした?)時代性を感じることができる。

もっとも、オールスターといいながら、ランカスター、マーチンの主演は、微妙に弱くもあり、とっくに全盛期を過ぎたハリウッドの衰退感も漂う。
二人ともさすがの演技ではあったが。

キャストで勢いを感じたのは、マーチンに不倫相手のCAを演じたジャクリーン・ビセットで、ミニ丈の制服姿が似合っていた。
彼女はこの作品の後、キャリアを積み重ねてゆく。

キャビンアテンダント役のジャクリーン・ビセット。この作品で一番旬の配役だった

ジーン・セバーグは当時フランスに住んでおり、夫のロマン・ギャリーとの問題、ブラックパンサーの支援者としてFBIにマークされていたことからのストレスに苦しんでいたころ。
「大空港」の役は、彼女じゃなくてもいい役柄にも思えたし、劇中、彼女らしい繊細でかつ豊かな感情表現を要する場面もなかったが、演技者としての確かな成長ぶりがみられる。
彼女が出演した70年代の数少ないメジャー作品としても貴重だった。

DVDパッケージ裏面

投稿者: 定年おじさん

1956年北海道生まれ。2017年に会社を退職。縁あって、長野の山小屋で単身暮らしを開始。畑作り、薪割り、保存食づくり、山小屋のメンテナンスが日課。田舎暮らしの中で、60歳代の生きがい、生計、家族関係などの問題について考える。60歳代になって人生に新しい地平は広がるのか?ご同輩世代、若い世代の参加(ご意見、ご考察のコメント)を待つ。

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