DVD名画劇場 MGMアメリカ映画黄金時代 ザッツMGMミュージカル③ 40年代ジーン・ケリーとフランク・シナトラ

MGMミュージカルシリーズの第三弾です。
50年代に絶頂期を迎えるMGMミュージカルが、盛隆を誇った40年代。
今に残る名作群が生まれています。

戦中から戦後の時代、アメリカの明るさ、豊かさが爆発しそうな時代。
ブロードウエイの舞台出身のジーン・ケリーと、イタリア移民の子孫で楽団コーラス上がりのフランク・シナトラがMGMのスクリーンで共演していました。

「錨を上げて」 1945年  ジョージ・シドニー監督  MGM

製作はジョン・パスターナク。
クレジットはシナトラ、キャスリン・グレイン、ジーン・ケリーが1枚の画面に上から順で。

製作がアーサー・フリードではないせいか、全体に地味な作りの印象。
地味というのは、レビューシーンに美人ダンサーがずらりと出てくるような場面がないこと、色っぽくなまめかしい色付けがなく、むしろ男の子とその叔母さんを出すなどアットホームな場面を強調していること。

フリード製作ならば子供は女の子だったろうし、豪華絢爛のレビューシーンでは腕によりをかけた美人たちをギラギラにデコレーションして総動員したであろうから。

若いシナトラがケリーの踊りについてゆく

サンデイエゴに停泊する航空母艦上での「錨を上げて」のマーチングで始まるこの作品。
4日間の休暇をもらった水兵たちがハリウッドで体験する心温まる物語。

奥手でぎこちない水兵を演ずるシナトラと、その保護者よろしく万事やり手の水兵を演ずるジーン・ケリーのコンビ。
8か月ぶりの休暇を酒池肉林で過ごすのではなく、子供の夢をはぐくみ、それぞれ運命の相手に巡り合うというハリウッドストーリー。

劇中アニメのジェリーと踊るジーン・ケリー

シナトラが出合う運命の相手は、ブルックリン出身のウエイトレス。
移民のるつぼニューヨーク・ブルックリンの出身者同士の無理のない交際が、移民出身のシナトラには良く似合う。
若いシナトラは細身の体をしならせて、精一杯の踊りでケリーについてゆく。

ジーン・ケリーの相手に収まるのは、ソプラノ歌手としてMGM入りしたというキャスリン・グレイン。
黒髪豊かなラテン風の容貌で、メキシコレストランで歌ったりする。

この映画、ヒロインが二人とも移民系のキャラクター。
金髪美人がレビューシーンで媚を売りまくるようなミュージカルに比べると、毛色が変わってはいないか。

ジーン・ケリーが達者な演技で、シナトラの面倒を見続けるという、男の友情の物語であることもこの作品のカラーとなっている。

「踊る大紐育」 1949年 ジーン・ケリー/スタンリー・ドーネン監督  MGM

主演のケリーと振付師出身のスタンリー・ドーネンの共同監督。
製作は、まってました!アーサー・フリード。

コンセプトは「錨を上げて」同様の水兵の休暇の物語。
期間を24時間と短縮したせいもあろうか、テンポよく、まとまりよく出来上がっている。

休暇でニューヨークに上陸した3人。まずは歌で喜びを表現

今回の水兵チームは、シナトラ、ケリーにジュールス・マンシンの3人組。
ニューヨークで次々と巡り合うお相手が、ベテイ・ギャレット、ヴェラ=エレン、アン・ミラー。

女タクシードライバー(ギャレット)がシナトラに一目ぼれして迫りまくったり、博物学者(ミラー)が原始人に似ているマンシンに興味をしめしたリ。
出会いの場面は唐突でぶっ飛んでいるが無駄がない展開。

ヴェラ=エレンの若々しいスポーテイなダンスシーンもグッド。
アン・ミラーがタップダンスが特別にうまく、独特の色っぽい雰囲気も「イースターパレード」でお馴染み。

男の友情を基本線にしているのは「錨を上げて」同様だが、前作よりその色合いは薄い。
その分女性陣のパフォーマンスが前面に出ており、ホームドラマではなくコメデイとなっている。
彼らがさ迷う夜のクラブの場面では(待ってました!)派手なダンサーたちが次々登場し夜のムードも色濃く描かれる。

エンパイアーステートビルで、右からヴェラ=エレン、一人置いてアン・ミラー

ジーン・ケリーがやり手で達者なキャラ、シナトラが不器用で奥手なキャラなことは「錨を上げて」を踏襲。
育ちは悪いが歌が上手いあんちゃん、というこの時期のシナトラの存在感がわかる。

「私を野球に連れてって」 1949年 バスピー・バークレイ監督  MGM

大リーグの試合は7回の攻撃前になると球場に「私を野球に連れてって」の曲が流れる。
その曲をモチーフにした映画である。
製作はアーサー・フリード。

監督は振付師としてブロードウエイから招かれ一世を風靡したバスビ-・バークレイ。
バークレイはその名前が〈凝った作りのミュージカルナンバー〉という意味の一般名詞として辞書に載る有名人。

〈バズの暴力志向と、女性に対する倒錯的な態度は(彼が振り付ける)ダンスナンバーにもはっきりと表れている〉とは、ケネス・アンガーによる「ハリウッド・バビロンⅡ」でのバークレイの人物評。

幾多の女優を紹介、抜擢し、私生活では3人死亡の自動車事故を無罪で切り抜けたりもしたバークレイ。
ハリウッドに来てからは一般映画の演出もこなしたが、この作品が監督としての最終作になった。

ミッキー・ルーニーに振り付けするバズビー・バークレイ(左)

またもや主演はシナトラとケリー。
今度は野球選手の役。
シーズンオフには二人して旅劇団で歌って踊る、というおまけつき。

開巻の二人の舞台「私を野球に連れてって」の歌と踊りでかっさらい、あとは怒涛の展開だ。

球団の新オーナーとしてキャンプ地にやってきたのは若い美人のエスター・ウイリアムス。
エスターは水泳選手から水中レビューをしていたところをスカウトされてMGM入り。
本作では、なぜかは知らぬがキャンプ地から遠征先まで、ずーっつと球団について回り、監督にも口を出す球団のオーナー役。

ホテルの夜のプールで、エスターが黄金色の水着で泳ぐシーンの夢のような美しさ。
その動きの良さと、長身のスタイル、可愛げのある顔立ちは一瞬にしてみるものの心をつかむ。

野球のシーズンオフに芸に精を出す二人

同じように心をつかまれた球団のスター遊撃手・ケリーが彼女を追いかける。
片やぶきっちょで奥手なシナトラには「踊る大紐育」でシナトラに迫りまくった達者な女優ベテイ・ギャレットが再び登場して名コンビよろしくカップリング。

エスターのキャラが明るいので昼のムードに覆われた家庭向きの作品となっている。

ぶっ飛んだギャグが連発される中、ケリーが口八丁手八丁のやり手のキャラ、シナトラが不器用で奥手のキャラを演じるのは、今回の3作品に共通していた。
作品を貫く能天気なムードは東宝の「若大将シリーズ」をちょっと思い出したりして。

投稿者: 定年おじさん

1956年北海道生まれ。2017年に会社を退職。縁あって、長野の山小屋で単身暮らしを開始。畑作り、薪割り、保存食づくり、山小屋のメンテナンスが日課。田舎暮らしの中で、60歳代の生きがい、生計、家族関係などの問題について考える。60歳代になって人生に新しい地平は広がるのか?ご同輩世代、若い世代の参加(ご意見、ご考察のコメント)を待つ。

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