70年代の出演作品2本を紹介する。
「ラムの大通り」 1970年 ロベール・アンリコ監督 ゴーモン社(フランス)
スペインとメキシコに長期ロケし、オープンセットで1920年代のカリブ海沿岸の町を再現。
丘にはクラシックカーや馬車と仕出しを、海には当時の密輸船を浮かべての贅沢な撮影を実現した。
監督は、短編「ふくろうの河」(61年)で注目を浴びたのち、「冒険者たち』(66年)、「若草の萌えるころ」(67年)、「オー」(68年)で清新な感覚を見せたロベール・アンリコを起用。
その持ち味の、”社会の表街道からは外れているが、一本気の好人物が己の信じる道を突き進(んで挫折する)”という監督自身のテーマをここでも追及されている。
「冒険者たち」で印象的だった、青く広い海への憧憬が本作でも再び詠われる。
何なら、旧型の輸送船(煙突が立っているスタイルの)へのオタク的拘りも感じられる。
宮崎アニメがヒコーキに拘るように。
この作品では、実写版でありながら帆船まで出てくる徹底ぶりだ。

映画の舞台は20年代の禁酒法時代のカリブ海の密輸ルート、”ラムの大通り”と呼ばれた、メキシコ、ジャマイカ、キューバ、ハイチで囲まれた海域。
そこにはボロ船と度胸一つで大金を夢見て、ラム酒の密輸に命を懸けるを男たちがいた。
変わり者だが、酒と喧嘩に強く、船を操る腕もいいのが主人公のコルドー(リノ・ヴァンチュラ)。
アメリカの沿岸警備隊に船を撃沈され、メキシコの海岸に流れ着いて無一文になった後、自ら射的(実弾の)の的になって賞金を稼ぐという賭を10回もやって大金を稼ぐと、再びボロ船を買ってジャマイカのキングストンに凱旋する。
いわば密輸界の男の中の男だ。
生きて帰ったコルドーにラム酒の荷主たちは好条件で仕事を依頼する。
一方、偶然飛び込んだ映画館で、リンダ・グリュー(ブリジット・バルドー)というスターが主演するアフリカ冒険もののサイレント映画を見たコルドーは、リンダと空想の中で運命の出会いを果たす。
雑誌や新聞のスクラップを船の自室に貼り巡らし、ラム酒の荷積みを中断して、映画の続きを見にハイチのポルトーフランスに船を出す。

こうして、命知らずで武骨な男と、サイレント映画の夢のスターとの、冒険時代の夢に溢れた海を舞台にしたロマンチックな夢物語が始まる。
先ず、サイレント映画を模したモノクロ画面に現れるバルドーのスタイルの良さに驚かされる。
撮影時で36歳にもなろうかというバルドーが、アフリカの白人女王風のヒョウ柄の衣装からのぞかせるお腹と足のシェイプアップぶり!
バルドーの20年代の映画スターぶりもいい。
美男美女が揃い、フラッパーガールとタキシードが揃って踊るパーテイの華やかさ。
その中でもひときわスリムでチャーミングなバルドー。
次々とミニ丈の20年代のファッションに身を包み、まつげをパタパタさせながら、チャールストンを踊り、最後には歌まで歌う。
スタイルと身のこなしがいいから、どのファッションも魅力的この上ない。
アンリコ監督のヒロインの配役は「冒険者たち」のジョアナ・シムカスの例をみるまでもなく、素晴らしい。

コルドーはリンダと付き合うようになる。
スターという虚像でいながら、実物のリンダは漢気のあるコルドーに惚れ得る人間味を持ち主でもあったのだ。
リンダは更に、密輸船に乗船し、沿岸警備隊との交戦では、顔を煤けさせながら救急箱をもって仲間を助けて回り、最後には舵まで握って、駆け付けた英国貴族の帆船の艇長に敬意を評されるのだった。
急に表れた帆船と英国貴族の存在は必然性が薄いものの、リンダが貴族から求婚されて応じたり、その後にやっぱりコルドーの船に来て浮気したり、そのことで貴族とコルドーが決闘することになったり、とドタバタが続く。
リンダはやってきた一団にさらわれて映画界に復帰。
禁酒法が開けた33年に保釈されたコルドーは映画館でリンダの看板を見かけて入場し、画面に没入。
自分が劇中ででリンダを抱きかかえているような夢を見つつ、いつまでも座席を離れないのだった。
作品への出演契約にサインをする前にシナリオを読んだバルドーは、
『台詞にはユーモワがあふれ、物語は禁酒法時代の漫画のようで、私の役はチャーミングでいたずらっ娘らしいところがちりばめられた、魅力的なものだった。それに私は歌を歌うことになっていたのである。』と、この作品との出会いを記している。(「自伝」p610)。
彼女と作品との幸福な出会いが目に浮かぶようだ。
またバルドーは共演したリノ・ヴァンチュラについて、
『どこかジャン・ギャバンを思わせるところがあり、なかなか親しくなれなかった』としながらも、
『料理とトランプ遊びを通じて、私はリノ・ヴァンチュラというとっつきは悪いが根は傷つきやすく、愛すべき熊を手なずけることができた。』と記している(「自伝」p614)。
この二人も劇中の二人同様に幸福な出会いだったようだ。

小生はこの映画を封切り時に見ている。
函館のロマン座という洋画二番館だった。
当時高校1年だったか。
リンダを思うコルドーの純情に同化しつつ見ていたのだろう。
バルドーの美しさと華やかさ、そして武骨な海の男を受け入れるやさしさを今でも忘れない。
映画ファンを今に至るまで続けている原動力の一つがこの作品だった。
「華麗なる対決」 1971年 クリスチャン=ジャック監督 フランス=イタリア=スペイン合作
ブリジット・バルドーことBBと、クラウデイア・カルデイナーレことCCの初共演。
両スターの顔合わせ映画として、「お約束」に徹した作品。
BB、CCの両レジェンドを愛する映画ファンにとっては十分に楽しめた。

BBはこれが「シャラコ」(68年 エドワード・ドミトリク監督)に次ぐ2本目の西部劇。
(20世紀初頭の中南米を舞台にしたメキシコロケ作品「ビバマリア」:65年 ルイ・マル監督、というアクションコメデイはあったが)。
CCは、60年代前半にはハリウッドに居を移しており、66年に「プロフェッショナル」(リチャード・ブルックス監督)、68年に「ウエスタン」(セルジオ・レオーネ監督:伊米合作のマカルニウエスタン)という西部劇に出ている。
根性が入った顔つきに、乗馬がうまく、アクションシーンが似合い、ついでにドレス姿ではこぼれるバストを強調できるCCは西部劇向きだ。

BBはどう見てもアクションが得意そうには見えない。
この作品でも、ひらひらのドレスから、黒ずくめの女ガンマンスタイルまで、ヨーロッパ製ウエスタンらしいファッションを披露。
野性味とバストだけで勝負するCCに比べて高いファッション性を見せている。

美人の妹4人を率いて西部を荒らしまわり、フランス人が開拓してフランス語が公用語の町へやってきたBB。
召使は黒人男性だ。
対するCCは弟4人を率いて列車強盗で荒稼ぎする町の女盗賊。
その義侠心と美貌で町の人気者だ。
召使は老インデイアン。
この2つのグループが町の郊外の牧場を巡って対立する。
石油が出ると噂されている牧場だからだ。
BBは、CC相手にガンアクションや荒馬乗りを見せる。
トリック撮影やスタントマン込みの演技とはいえ、レジャンドが取り組むアクション演技に、見ている映画ファンは喜び、ハラハラする。
もちろん姉妹5人で川で水浴びするお色気シーンもある。
姉御肌でスピーデイな動きが身上のCCは、女ガンマンスタイルに身を固めてのパキパキした動きがたまらない。
走っている列車に馬で追いつき、列車に乗り込んで屋根を走る。
もちろんスタント込みの撮影だが、CCが扮するルイーズの動きに見える。

牧場に集まった両グループは両姉御のタイマンで勝負を決着することになる。
果てしない取っ組み合いが始まる・・・。
前半には、フランスのベテラン女優ミシュリーヌ・プレールが、網タイツ姿で歌いながら娼館の階段を下りてくるという場面もある。
彼女の出演場面はここだけだが、まだまだ見事な網タイツ姿を見せる。
1922年生まれの彼女は、「肉体の悪魔」(46年 クロード・オータン=ララ監督)でジェラール・フィリップを誘惑する人妻を演じ、本作と同年に製作された「ロバと王女」(70年 ジャック・ドミー監督)で、ジャック・ペラン扮する王子の母親の王妃を演じたばかりだった。

「俺たちに明日はない」(67年)、「お前と俺」(70年)が印象的なマイケル・J・ポラードは、町のドジドジな保安監兼判事兼公証人を演じる。
アクターズスタジオ仕込みだという独特のセリフ回しと間は健在だったが、この作品ではコミカルな部分を強調しており、一定の存在感は見せた。

「ブリジットバルドー自伝 イニシャルはBB」では、映画最大の山場となるCCとの取っ組み合いの場面について、
『このシーンの撮影は一週間続いた。(中略)二度か三度、私の唇は割けた。かわいそうにクラウデイアは目の周りにあざができそうだった。この情け容赦ない戦いで、私たちの間にあった溝は埋まった』(「自伝」p632)
と記している。
また共演したカルデイナーレについては、『慎み深いが精力的な女性』、『いくつもの試練を静かにそして威厳をもって乗り越えることができる人』(いずれも「自伝」p632)と最大限の敬意を表している。
ヨーロッパの2大女優の共演を、適度な汚れ役を与えつつ、それぞれに花を持たせ、最後は大団円で締めくくった作品。
それが映画の中だけではなく、リアルなBBとCCに間にあっても同様だったのがうれしい。
ブリジットバルドーは、「華麗なる対決」の後2本の映画に出演して映画界を引退した。
「自伝」は、動物たちのための新しい生活に入ることを静かに宣言して終わっている。
映画界でやることはやり尽くしたのであろうバルドーが、ライフワークたる動物愛護に人生をささげるという彼女らしい潔さがここにある。
