権堂通商店街
長野市の中心部、善光寺表参道と交差して一筋のアーケード街がある。
権堂通商店街といい、その昔は善行寺参りの精進落としの場として、遊女を置くような店があった場所らしい。
今では洋品、雑貨、食堂などが並ぶ商店街で、1本裏にはいると風情を感じるバー、料亭なども見える。
中心部からそれるにつれ、アーケードの覆いがなくなり、居酒屋などが並ぶ飲み屋街へと姿を変える。
ここ権堂通商店街の一角に相生座がある。
相生座
明治25年に芝居小屋として開設し、国内最古級の歴史を誇る相生座。
県内には、上田映劇、伊那旭座、塩尻東座、茅野新星劇場などのが歴史を誇る映画館が現存する。
映画館らしい外観はもちろん、大スクリーンを擁し天井が高く2階席がある場内、現役のフィルム映写機もあったりする。
その中で、歴史、上映作品の質量で県内トップの映画館が相生座である。
長野市は遠いのだが、山小舎おじさんも相生座の、小津4K特集やルイス・ブニュエル特集には駆け付けた。
支配人は女性で、時には入場者にほうじ茶をふるまうなどアットホームに対応してくれ、山小舎おじさんとの雑談にもよく応じてくれる。
支配人の心配りはホールの展示や、枕の貸し出しなどにもうかがえる。
何より上映作品のセレクトに映画への愛と営業への熱意がにじみ出ている。
上映作品はいわゆるミニシアター系の新作が中心だが、時には地元テレビ局製作のドキュメンタリーを上映したり、関係者の舞台挨拶もよく行われる。
何よりオールドファンにうれしいのは、過去の名作特集。
最近では、小津、ブニュエルのほか、デジタル版の「天井桟敷の人々」が特別料金で上映されたりした。
こういった点にも、県内最高レベルの映画館の自負がうかがえる。
ベルモンド傑作選「カトマンズの男」
相生座でこの秋に上映されたのがベルモンド傑作選。
ジャン=ポール・ベルモンドの主要作品をデジタルで上映するもの。
この日は名コンビ、フィリップ・ド・ブロカ監督の1965年作品「カトマンズの男」。
10時の上映時間に合わせて、7時に山小舎を出発したおじさん。
交通量の多い朝方の道をかき分け、9時半過ぎに相生座に到着しました。
入場者受付で忙しそうな支配人の暇を見て雑談。
作品の輸入元のキングレコードの英断で実現した企画だが、版権先との交渉が大変で値段も高かった。
ベルモンドはフランスでは国宝級の人物ですからね。とのこと。
日本ではヌーベルバーグの主演者の一人として映画史に残っていますが、娯楽アクションスターの位置づけだったベルモンドは単独では回顧上映は組みづらかったことでしょう。
ベルモンド88歳での逝去をきっかけにしたとはいえ、企画してくれたキングレコードと、上映してくれた相生座には感謝です。
当日10人ほど駆け付けた観客。
年代的にも中高年。
リアルタイムではベルモンドもすっかり落ち着いていたころの世代となります(山小舎おじさん的には「ラ・スクムーン」(1972年 ジョゼ・ジョバンニ監督)、「薔薇のスタビスキー」(1974年 アラン・レネ監督)がリアルタイムのベルモンド)。
リオやカトマンズを駆け回る「男」シリーズはテレビ洋画劇場で見るイメージでしたね。
で、この「カトマンズの男」。
邦題ではカトマンズとは銘打ちながらも、ほとんどが香港を舞台とするアジア冒険活劇物で、カトマンズは王宮やボダナートと思われる巨大仏舎利でロケされており、インドから到着する空港は、マチャプチャレがバックに見えるポカラ空港である。
が、そんなことはどうでもいいほど画面に活力と魅力を漲らせるのが若いベルモンドのアクション。
スタントマンを使わないといわれるだけあって、ほとんど全部のシーンに体を張って、香港ではクレーンに追り上げられ、竹で組んだ足場を走り回り、市場の野菜や卵に飛び込む。
ヒマラヤでは、気球から吊り下げられたロープをよじ登り、山脈の崖をよじ登り、雪山を転げ落ちる。
南国ランカウイ島では、ヒロイン(ウルスラ・アンドレス当時29歳)とのつかの間のロマンスに興じ、像に乗って悪漢を撃退したりする。
とにかくサービス精神旺盛で、アクション満載。
観たままを楽しめばいい造りながら思ったよりはるかに大作。
全編に近い場面がアジアの現地ロケであるところもいい。
ド・ブロカとベルモンドの若さと明るさを感じる。
相手役のアンドレスが、世界を放浪しながら社会学をフィールドワークしているという女子大生役で、かわいらしく演出されているのも貴重。
大富豪の2世として何不自由なく暮らしているものの、いったん命の危機に瀕すると途端に生き生きと冒険に邁進するというヒーローを演じるベルモンド。
彼が当時、フランス映画界においていかに大事に育てられているか!がわかる。
育ちよく、影のない、若いヒーローの冒険。
これこそがフランス映画の希望と未来だった!
「カトマンズの男」はそういった時代の快作だった。
これは「リオの男」も観ざるを得まい。