「豹は走った」と西村潔

ラピュタ阿佐ヶ谷の特集「ニュープリント大作戦」で「豹は走った」が上映された。

当日のラピュタ阿佐ヶ谷の上映案内より

「豹は走った」 1970年  西村潔監督  東宝

東宝ニューアクションと呼ばれた作品群のエース監督だった西村潔監督のデヴュー第3作。
主演は加山雄三と田宮二郎、ヒロインに加賀まりこを起用した、1970年の作品。
前年に「死ぬにはまだ早い」で監督デヴューしたばかりの西村がメガホンを取り、脚本には長野洋と石松愛弘。

「若大将」を卒業し、今後を模索中の加山と、大映で育った田宮、松竹育ちの加賀というキャステイングが異色ならば、脚本の石松も大映育ちで、東宝には珍しい混合チームによる作品。
折から、大映が倒産し、日活もロマンポルノ路線に移行直前の、いわば映画界の斜陽化が待ったなしの時代。
阪急資本をバックとし、保有する劇場群の上りが堅調とはいえ、ヒット作に乏しかった映画会社東宝の試行錯誤がうかがえる企画。

ラピュタ阿佐ヶ谷のホールに貼られたポスター

形式上刑事職を辞職して某国大統領の護衛を命じられる加山(:シェパード)。
必要なら事前に発砲することも許される秘密任務だ。
片や正体不明の殺し屋・田宮(:ジャガー)が大統領を狙う。
二人が死力を尽くしてやり合う。
バンバン発砲し合う「乾いた」銃撃シーンが、洋画のアクション映画のよう。

動機や理由の説明描写を省いて、純粋なアクションに徹した西村演出が新感覚。
これぞ東宝ニューアクション。
加山が武器を選ぶ時の警察署内の武器庫に並んだ特殊な拳銃たちと、それを専門的に説明する武器係のオタクっぽさも映画的に、いい。

大統領暗殺のためにジャガーを雇ったのは総合商社の会長(中村伸郎)。
大統領が死んだら現地の革命勢力と結託し、万が一生き残っても現勢力と「ソデノシタ」関係を継続、と「金がすべて」の資本主義の権化・日本商社が黒幕だった、という意外性。
小津作品のエリート紳士が定番だった中村が演じる商社マンは、いつもの飄々とした演技で「商社の怖さ」を表現する。
大手商社に象徴される営利活動はその極限に於いて、道徳性なり信義性とは無関係に、人命ですら尊重されずに、社会にの裏の機能を駆使して行われるものだ、という怖さ。

この作品が日本映画らしさを越えて「ハードボイルド」なのは、クールな脚本だけではなく、加山をそれらしく(秘密任務の刑事役は適役)演出し、スピーデイーなカッテイングでまとめた西村監督の手腕によるもの。

田宮二郎は、大映時代の「悪名シリーズ」モートルの貞、や「犬シリーズ」の勢いと調子のいいチンピラ役、があまりにはまり役だったこともあり、出てくるだけで大映カラー(背後に永田雅一と勝新太郎と大阪新世界の匂い)が立ち込めてしまうが、それも田宮のカラー。

加賀まりこはデヴュー当時の「妖精系不思議ちゃん」キャラから脱皮し、商社の裏活動にタッチする大人の秘書役をこなし、存在感をみせていた。

ラピュタ阿佐ヶ谷の特集パンフより

ほかの西村潔監督作品について

「白昼の襲撃」(1970年)

西村監督の第2作目。
主演の黒沢敏男のチンピラぶりがよかった。

相手役の高橋紀子は東宝青春スター候補の一人だったが、この作品では盛り場で黒沢にナンパされ、転落の道に落ちる「軽い」が最後まで黒沢を信じ、ついてゆくヒロインを演じる。
アメリカ映画のフィルムノワールのヒロインのように、汚れながらも懸命に、自滅する主人公についてゆく姿が泣かせた。
彼らが絡むやくざの代貸し役で岸田森が怪演。
テンポよくクールな西村演出がますます冴える。

「ヘアピンサーカス」(1972年)

首都高を突っ走るスポーツカーの主観映像がタイトルバック。
映画はその後も、まるで16ミリカメラで撮ったドキュメンタリーのような映像でひたすらカーアクションを追求する。
CGではなく、全部が実写。

主役は現役カーレーサーの見崎清志という人。
ヒロインの江夏夕子くらいが名の知れた俳優の、若い走り屋たちのクールでドライな青春物語。

ドラマ性に乏しく、まったく東宝映画らしくないこの作品の制作動機は、五木寛之原作だからなのか。
ジャズを取り入れたところも西村監督らしい。  

「薔薇の標的」(1972年)

もみあげを長くした加山雄三がスナイパーを演じる。
トビー門口をガンアクション監修に起用、ガンとガンアクションへの西村監督のこだわりがうかがえる。
ほかはあまり記憶にない。

「黄金のパートナー」(1979年)

2本立ての添え物として作られた作品。

西村監督は極めてリラックスして撮っている。
監督のリラックスは役者にも伝わり、三浦友和、藤竜也の主演二人のリラックスぶりはすごい。

揺れる手持ちカメラの前で、雑談のようにセリフを交わす主演二人。
三浦友和ってこんなに自然な演技ができるのか、と見直したほど。

警察官役の藤竜也が白バイで、ヨットに暮らす三浦友和のところへやってきて軽いノリで延々とだべる場面が続く。
そのうちに「映画はこんな風に自由に作っていいものなんだ」と、見ている観客は心地よくなる。

途中でサスペンスが少々混じるが、「冒険者たち」のように、男二人にヒロイン(紺野美沙子)を交えた海洋ロマン。
西村監督の得意分野が、車、ジャズ、ガンのほかにダイビングだということがわかる。
この作品を見て西村監督が強烈に印象付けられた。

投稿者: 定年おじさん

1956年北海道生まれ。2017年に会社を退職。縁あって、長野の山小屋で単身暮らしを開始。畑作り、薪割り、保存食づくり、山小屋のメンテナンスが日課。田舎暮らしの中で、60歳代の生きがい、生計、家族関係などの問題について考える。60歳代になって人生に新しい地平は広がるのか?ご同輩世代、若い世代の参加(ご意見、ご考察のコメント)を待つ。

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