女優パトリシア・ニール その2 ワーナー時代

1926年生まれのアメリカ人女優パトリシア・ニールは、ブロードウエイで新人賞、トニー賞などを受賞し、ハリウッドからスカウトされた。

自伝「真実」によると、サミュエル・ゴールドウインやデヴィッド・O・セルズニックなどに食事に呼ばれたとあるが(セルズニックには食事の後にベッドに連れ込まれそうになった、とも)、契約したのはワーナーブラザーズ。
契約料は週給1250ドル(最高で3750ドルにアップ)、舞台出演の際はニューヨークへ戻ってよいとの内容の7年契約だった。

この7年契約は満期を迎えることなく解約となったが、1947年から51年途中までのワーナー専属時代、パトリシア・ニールは8本ほどの映画に出演している。

8本の内訳をみると、ロナルド・レーガンとの共演が2本、ゲーリー・クーパーとが2本。
ジョン・ガーフィールド、ジョン・ウエイン、リチャード・トッドとが各1本。
監督ではキング・ヴィドア(「摩天楼」)、マイケル・カーティス(「破局」)の作品に起用されている。
パトリシア・ニールがA級作品に起用されていることがわかる。

ワーナー時代には後世に残るような作品は少ない(「摩天楼」くらいか)。
というか大ヒット作品はなかったし、大衆に訴えるような作品はなかった。

世界の古典映画をデータ素材で仕入れ、新しくスーパーインポーズをいれて公開している、シネマヴェーラ渋谷の特集で、「摩天楼」と「破局」の上映があった。
DVDで見た「太平洋機動作戦」と併せて、パトリシア・ニールのワーナー時代を振り返りたい。

「摩天楼」「破局」が上映中の渋谷シネマヴェーラ

「摩天楼」 1949年 キング・ヴィドア監督  ワーナーブラザーズ   シネマヴェーラ渋谷

ハリウッドに身を投じ、ワーナーと専属契約を結んだパトリシア、2本目の作品。

自伝「真実」によると、1本目の「恋の乱戦」の時の映画撮影現場が好意的に述べられている。
スタジオのセットが夢の国のようで、共演のロナルド・レーガンは陽気でフレンドリーだったこと。
映画俳優としてのプロ意識にたけた俳優たちに感銘を受けたこと、など。

「摩天楼」ゲーリー・クーパーと

第二作目の「摩天楼」は、1940年代のアメリカのベストセラー小説の映画化で、ワーナーの大監督、キング・ヴィドアに声をかけられてヒロイン役に挑んだという。
自伝では、ヴィドア、クーパーとの顔合わせやスクリーンテストのことが、昨日のことのように生き生きと語られている。
パトリシアが生涯で唯一愛した男クーパーとの邂逅だ。

二人は撮影中に急接近した。
自伝には、毎日撮影後にクーパーの部屋に電話して翌日のスケジュールなどを確認するパトリシアとそれに喜んで答える48歳のクーパーの描写がある。
二人のスタンドインがいたものの、パトリシアとクーパーはリハーサルやセッテイングの最中も二人で身じろぎもせずにその場にとどまっていて、スタンドインに仕事をさせなかったことも。

撮影終了の打ち上げパーテイーの夜、二人は結ばれる。
長い恋愛の始まりだった。

「摩天楼」パトリシア・ニール

「摩天楼」のスクリーン上の世界よりも、自伝に語られているパトリシアとクーパーの出会いと恋愛の方が数倍もフレッシュで輝いている。

170センチを超える長身とすらっとしたスタイル、流れるような金髪のパトリシアは、ロングドレスや乗馬服に身を包みカメラ映りがいい。
バリバリのハリウッド式メイクにもなじんでいる。
「(40年代ハリウッドの)映画俳優とはこういうものだ」と自覚し、場に溶け込もうとするパトリシアの素直で積極的な姿勢がうかがえる。
低い嗄れ声のセリフ回しは今となってはわざとらしいが、パトリシアのハリウッドへの順応の一環でもある。

「摩天楼」は己の信念を曲げない建築家の主人公が、石切り場の工夫に身をやつしながらも這い上がり、認められるというストーリー。
ヒロインとの間の性的葛藤の味付けをしながら(パトリシアがクーパーを鞭打つシーンもある!)。

パトリシア・ニールは演技力もさることながら、輝くような若さに加え、セックスアピールがあり、まさにハリウッド女優の誕生!の瞬間を見るようである。
が、彼女の本質を生かした配役でないこともまた窺える。

それよりもその長身とややしゃくれた顔は、ディズニーの「101匹わんちゃん」の悪漢の女ボスを思い出してしょうがなかった。
あれは確実にパトリシア・ニールを盗んだ(カリカチュアした)アニメキャラだ。
アニメキャラとなるくらいの影響力をパトリシアは若くして持っていたのだ。

シネマヴェーラの特集チラシより

「破局」 1950年  マイケル・カーテイス監督  ワーナーブラザーズ  シネマヴェーラ渋谷

パトリシア・ニールのワーナー5本目の作品。
監督に「カサブランカ」のカーテイス、主演に舞台出身の実力者で映画でも人気のあったジョン・ガーフィールドを起用したA級作品。
原作はヘミングウエイの「持つと持たぬと」。

ヘミングウエイの原作は44年に「脱出」として映画化されているが、「脱出」はウイリム・フォークナーのオリジナル脚本とハワード・ホークスの演出による冒険活劇ともいうべき作品とのことで、この「破局」のほうが原作に忠実だという。

腕が確かで真面目なことから信頼を得ている船頭(ガーフィールド)が、日銭に不自由する健気な妻とかわいい子供のため、キューバとの間の密輸に手を染める。

長年の相棒は黒人の船乗りで主人公とは絶妙のコンビ。
金のためにギャングの強盗の手助けを請け負うが、偶然乗り込んでいた相棒を殺され、自力でギャングと対決する主人公。
その戦いは、孤独で陰惨で残酷。
主人公は自力で窮地を脱する、全幅の信頼を置く相棒と己の腕1本を失って。

やむを得ないとはいえ、人の道に背いた行いを、犠牲を払いつつ自力で落とし前をつける姿が、身を切るような描写で描かれる。

まじめで妻一筋の男の苦悩をガーフィールドが演じる。
ユダヤ人でストリートキッズ上がり、演劇で出世した後もハリウッド赤狩りのターゲットとなったガーフィールドが死ぬ直前に出演した作品。
主人公に絡む身持ちの悪い女にパトリシアが扮する。
柄の悪い役もちゃんとこなす演技が見られる。

「破局」の撮影シーン。

第二次大戦は終わったが、朝鮮戦争を目前にして、国内では反共ヒステリーが吹き荒れたアメリカ。
オーストリア=ハンガリー帝国出身のユダヤ人、マイケル・カーテイス監督のタッチもひたすら暗い。
救いは「持たざる者」ガーフィールド一家の健気な妻(フィリス・サックスター)への視線のやさしさ。
そして主人公の危機脱出の後、父親が殺されたことを知らぬ黒人の少年(主人公の相棒の息子)が港に一人取り残されるラストシーン。

最後まで女(パトリシア)の誘惑になびかず、家で待つ妻に操を立てる主人公もいい。
女と敵はなぎ倒してゆくのがアメリカ映画の「タフな男」というお約束の中、真に勇気ある男の姿を描いたのは、ユダヤ人カーテイスの真骨頂か。

マイケル・カーテイスにとって「破局」は「カサブランカ」に次ぐ「アメリカンヒーローもの」なのかもしれない。
「カサブランカ」のボギーがかっこよい表のヒーローだとすれば、「破局」のガーフィールドは、持たざる者の陰のヒーローとしての。
自らまいた種とはいえ、窮地に陥った時は自ら実力をもって解決に当たり、愛するものを決して裏切らず、の陰のヒーロー方が真の勇者なのかもしれない。

パトリシアの「自伝」ではこの作品について、「ガーフィールドはいつも強烈な動物の雄のエネルギーを放射していた。女には抜け目なく手が早かった。彼は私の手を取ると俺の気持ちわかるだろ、といった。彼の気持ちはよく分かったが、彼を相手にそんなつもりはなかった。私はゲーリーの女だった。」と述べている。

決まった。

シネマヴェーラの特集チラシより

「太平洋機動作戦」 1951年  ジョージ・ワグナー監督  ワーナーブラザーズ  DVD

パトリシア・ニールのワーナー7本目の映画、この後の「草原のウインチェスター」を最後にワーナーブラザーズを離れることになる。

ジョン・ウエイン主演の第二次大戦を舞台とする潜水艦もの。
共演にワード・ボンド、ジャック・ペニックを配してのバリバリ男性路線。
パトリシアはわけあってウエインと別れたが、まだ愛し合っている看護婦を演じる。

「自伝」でパトリシアはいう。
「ジョン・ウエインは大衆には大変な人気者だったが、私にはまったく訴えてくるものがなかった。彼が相手では私の魅力も発揮できなかったと思っている」。

また、「私はこの撮影所(ワーナー)にとって金食い虫になりつつあった。映画評論家たちは思いやりがあったが、興行的に大成功を収めたことはなかった。私は新しいガルボになってはいなかった。」とも。

すでに7作目にしてパトリシアが自覚している状況が影のようにこの作品を覆っている。
髪をブラウンに染め、看護婦のコスチュームに身を包むパトリシアだが、背の高さとスタイルの良さが生かされておらず、長身を持て余した猫背の女性に見えてしまう。
ジョン・ウエインとの共演も水と油。

作品そのものも、アメリカ海軍の潜水艦乗りに敬意を表するのはわかるのだが、たとえば急速潜行中に艦長らがタバコを吸ったり、日本海軍駆逐艦の爆雷攻撃中に艦内の食堂でまったりコーヒーを飲んだり、と、どうなの?という表現が横行している。
だいたい潜水艦内の描写に緊張感がない。

ドイツや日本の潜水艦ものに比べ、悲壮感がないのは半分は事実だろうが、艦内の食堂がロードサイドのダイナーのように居住性良く描かれるのは違和感がある。
日本軍が登場するシーンの背景に中国風の音楽が流れるに至っては、がっかり。

ジョン・ウエインを見に来た観客は満足するのだろうが、史実に忠実な戦争映画も数多いハリウッドにあって、この作品は旧態依然というか、大衆におもねた作品に見える。
パトリシア・ニールを生かしきれなかった典型的な作品だと思う。

この時期、実生活でのパトリシアはクーパーとの間の子を妊娠したことに気づいていた。

投稿者: 定年おじさん

1956年北海道生まれ。2017年に会社を退職。縁あって、長野の山小屋で単身暮らしを開始。畑作り、薪割り、保存食づくり、山小屋のメンテナンスが日課。田舎暮らしの中で、60歳代の生きがい、生計、家族関係などの問題について考える。60歳代になって人生に新しい地平は広がるのか?ご同輩世代、若い世代の参加(ご意見、ご考察のコメント)を待つ。

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