DVD名画劇場 1940年代最高の美人女優ジーン・ティアニー

ジーン・ティアニーという女優がいました。
1920年ニューヨーク生まれのアイルランド系。
旅行でハリウッドのスタジオを訪れたときにスカウトされ、1940年代に活躍した。

叩き上げ女優のような強烈な存在感に訴える女優ではなく、気品ある美しさが持ち味だった。

ジョン・フォードの「タバコロード」(1941年)やエルンスト・ルビッチの「天国は待ってくれる」(1943年)などに出演した。

映画評論家の山田宏一や蓮見重彦がジーン・ティアニーのファンで、彼らの著作や対談集には彼女に一章が割かれていることが多い。

今回はジーン・テイアニーの出演作から2作を選んで見てみた。

「砂丘の敵」 1941年 ヘンリー・ハサウエイ監督

ジーン・ティアニー21歳の時の作品。

製作はウオルター・ウエンジャー。
第一次大戦後のパリ講和会議で大統領補佐官の任についたという、数か国語を操る人物で、パラマウントに入社後、プロデユーサーとして独立し、数々の作品を制作した。

主に1930年代から40年代にかけて活躍し、ドイツからの亡命ユダヤ人監督フリッツ・ラングの「暗黒街の弾痕」(1937年)、「入り江の向こう側の家」(1940年)のほか、ジョン・フォードの「駅馬車」(1939年)やアルフレッド・ヒッチコックの「海外特派員」(1940年)をプロデユースしている。

本作「砂丘の敵」は英領東アフリカが舞台の冒険活劇。

世界大戦時の不安定な情勢下で、英国から派遣された軍人、鉱物学者らが、現地人に不正に武器を供与する勢力の暗躍に立ち向かうストーリーで、クレジットのトップを飾るジーン・テイアニーは現地で生まれ育ち、父が築き上げた現地の隊商による交易利権を継承しているという白人娘で登場する。

敵対勢力(ドイツを暗喩)に立ち向かう連合国白人チームの冒険活劇、という点ではのちの「インデイジョーンズ」をほうふつとさせる。

ユダヤ人でもある製作者のウエンジャーが、反ナチの意味を込めた本作の設定は、この後アメリカ映画のいわば定番の設定ともなり、ナチス勢力はわかりやすい悪役として登場し続けることとなる。
「砂丘の敵」はその原点の1本なのだろう。

DVDパッケージ裏面より

ジーン・テイアニーはスカーフを被り、おなかを出したハーレム風衣装で活躍する。
当時のオリエンタルな女性スタイル(とおもわれるもの)である。

当時のアメリカ映画「アラビアンナイト」(1942年 ジョン・ローリンズ監督)や「アリババと四十人の盗賊」(1944年 アーサー・ルービン監督)でも、シエラザードやお姫様を演じたドミニカ出身の美人女優マリア・モンテスも、スカーフとおなか出し、はお約束だった。

東アフリカと中東では、風景も人種も服装も異なるとは思うのだが、西欧(とアメリカ)にとっては、自分たちの世界以外は〈東〉としてひとくくりにしていた世界観(今も?)なのだろう。

「砂丘の敵」のジーン・テイアニー

砂漠を駆け抜ける馬に乗った一団。
現地人の隊商を統括するベールを被った美しき白人娘。
〈民主的〉にあーだこーだと、仲間内では揉めながらも、最終的にはテキパキと敵対勢力を打ち破る連合国チームのスリリングな活躍。

大戦下の不安に満ちた雰囲気漂う作品ながら、かつ、のちの冒険活劇の原点ともいえる要素に満ちた「砂丘の敵」でした。

文庫版「傷だらけの映画史」の表紙を飾るジーン・テイアニー

ここで余談

砂漠を駆け抜ける馬に乗った一団。
「アラビアンナイト」でもそうだったが、ラクダはともかく、中東やアフリカでこのようにたくさんの馬が運用できたのは史実なのだろうか?

スピード感があって映画的にはこれでいいとは思うのだが。

マリア・モンテスが出演するアラビアもの2作品

「風とライオン」(1975年 ジョン・ミリアス監督)でも、現地人首領に扮したショーン・コネリーは集団を馬で運用していた。
ショーン・コネリーが誘拐したアメリカ領事?夫人役のキャンディス・バーゲンを自らの乗馬に抱え上げて立ち去る場面は、映画のハイライトとしてヒロイックに演出されていたが、果たして。

「ローラ殺人事件」1944年 オットー・プレミンジャー監督 20世紀FOX

ジーン・テイアニーの代表作で、オットー・プレミンジャーの出世作。
美人で華やかな活躍をする主人公ローラを巡る男たちの悪夢の物語。

殺されたはずのローラが現れて、刑事や真犯人らが驚く。
ローラを巡る、パトロン、婚約者、刑事らの心理が謎めいて描かれる。

高慢で滑稽なくらい個性的なパトロン、女にだらしないクズっぽさ全開の婚約者。
一匹狼風の敏腕刑事にしても、一人で殺人現場のローラ宅に泊まり込む、という異様さ。

まともな人が出てこない。
刑事でさえも途中からローラの陰に取り込まれ、夢中になってしまう。
もともと彼らがまともではないのか?それともローラが彼らを虜にしているのか?

ジーン・テイアニーは本作当時24歳。
貫禄もつき、美しさに磨きがかかっている。
まさに適役。

様々な髪形、ファッション、帽子で登場し、いちいちキュートだ。

ラストで謎は解明され、真犯人が射殺され、ローラは刑事の胸に飛び込む。
それまでの間、何より観客はローラの魅力に惑わされ、迷宮のストーリーにさ迷う。
悪夢のようなその展開がこの作品の狙いだったのだろう。

投稿者: 定年おじさん

1956年北海道生まれ。2017年に会社を退職。縁あって、長野の山小屋で単身暮らしを開始。畑作り、薪割り、保存食づくり、山小屋のメンテナンスが日課。田舎暮らしの中で、60歳代の生きがい、生計、家族関係などの問題について考える。60歳代になって人生に新しい地平は広がるのか?ご同輩世代、若い世代の参加(ご意見、ご考察のコメント)を待つ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です