アメリカ映画黄金時代のラインアップに欠かせないのがミュージカル映画。
「ミュージカル映画こそは、我々大衆が常に求めている真の芸術形態であると筆者は確信する。」とは、柳生すみまろ著「ミュージカル映画」(1975年 芳賀書店刊) P158よりの引用。
今回は1940年代に全盛期を迎えたMGM社のミュージカル映画から、その勃興期に当たる1920年代から30年代にかけての2作品を見た。
「ブロードウエイ・メロデイ」 1929年 ハリー・ボーモント監督 MGM
世界初のトーキー映画が1927年の「ジャズシンガー」。
初のミュージカル映画ともいわれる「ジャズシンガー」から、各社は玉石混交のミュージカル作品を制作した。
「ブロードウエイメロデイー」は、音楽部員として、のちにMGMはミュージカルを支えることになるアーサー・フリードが参加し作詞を担当。
また、劇中の全曲がオリジナルスコアという力の入った1作だった。
出演は、ブロードウエイのスターを目指す姉妹役に、ベッシー・ラヴ(姉)とアニタ・ペイジ(妹)。
姉の恋人で、ブロードウエイで作曲家兼役者をしている役にチャールズ・キング。
アーサー・フリードを除き、監督のボーモントともども、現在では忘れられたスタッフ、キャストだが、姉役のベッシー・ラヴは子役から無声映画で活躍した人気者だったとのこと。
また、映画は我々が想像するような、セリフを歌で表現したり、レヴューシーンと劇シーンが混然一体となったミュージカルではなく、歌と踊りが行われるのは舞台上とけいこの時だけで、あとは一般の劇映画のように進んでゆくスタイル。
田舎からニューヨークに上京し、舞台のスターを目指す姉妹が主人公。
お互いへの思いやり、チャールズ・キング扮する姉の恋人を巡る三角関係、バックステージの混乱、リハーサル前の緊張、妹の抜擢、妹に近づく都会の遊び人・・・などが要素となって話が進む。
前述のように、レビューシーンは舞台を平板的に撮影するという方法で表現され、のちのMGMミュージカルに見られるような、大セットと大人数のダンサーによる目くるめく舞台を立体的に撮影する、というスペクタクル性は見られ無い。
ダンサーたちの踊りも、整合性がなく緩い感じなところに完成度の低さがうかがえる。
その分、ベッシー・ラヴの達者な個人芸が見られるのは、アナクロな意味で拾い物だが。
先の「ミュージカル映画」によると、ミュージカル映画には2種類あり、一つはいわゆる楽屋話を描くバックステージものや伝記もので、もう一つは40年代のMGMミュージカルに代表されるオリジナル歌曲で構成される豪華絢爛なものだという。(同著P150)
この定義で行くと「ブロードウエイメロデイー」は、初のオリジナルスコアによる作品でありながら、多分にバックステージものの要素を持っており、分類は難しいが、レヴューシーンの表現が成熟していない点やドラマ部分の重要度合いを見ると、一つ目のいわゆる「楽屋話」に分類されるのだろう。
妹を思って、遊び人から妹を守ろうとしたり、三角関係から身を引く姉(ベッシー・ラヴ)の演技がよかったし、妹役アニタ・ペイジのフレッシュな美しさは見ごたえがあった。
本作は大ヒットし、MGMがミュージカルに傾注するきっかけになったという。
「巨星ジーグフェルド」 1936年 ロバート・Z・レナード監督 MGM
上映時間(DVD)178分。
MGMのトップスターの配役。
豪華絢爛なレビューシーン。
どれをとっても第一級作品仕様で、40年代に全盛を迎えるMGMミュージカルの直接の契機となった作品。
第9回アカデミー賞の作品賞と主演女優賞(ルイーゼ・ライナー)を受賞。
このそうそうたる作品が1936年に生まれている。
テーマとなったジーグフェルドとは何か?
この作品撮影の数年前に死亡したブロードウエイのレビュープロデユーサーである。
名前の通りドイツ系移民の子孫で、父親は音楽学校の経営者。
比較的裕福な出だった。
1893年シカゴ万博の会場からドラマは始まる。
筋肉自慢の怪力ショーをプロモートするジーグフェルド(ウイリアム・パウエル)。
向かいの小屋ではエジプト娘のベリーダンスを出し物に、終生のライバルとなる興行師が呼び込みしている。
当時の万国博覧会は異国趣味や怪物志向の見世物小屋が今でいうところのパビリオンだったのだ!
まもなく口八丁手八丁のジーグフェルドルドは、ライバル興行師を付け回し、ロンドンでフランス人歌姫アンナ(ルイーゼ・ライナー)を横取り契約して大当たりを取り、彼女と結婚(実話では事実婚)したりで、ブロードウエイでのし上がってゆく。
舞台については装置から衣装まで細かく口を出す。
そのことごとくがヒットにつながる。
アンナを主役から降ろし、バックダンサーのオードリー(ヴァージニア・ブルース)をレビューの主役に抜擢。
大人数のダンサーを使い、大掛かりな舞台装置、豪華な衣装のレビューを演出するのがジーグフェルドのスタイル。
映画で再現されるそれは、まさにMGMミュージカルの豪華さをこれでもかと見せつけるよう。
デコレーションケーキのような形の巨大な装置を舞台上にあつらえ、それが回転するにつれ、東洋調、イタリア調と異国情緒あふれる場面が過ぎてゆく。
様々な音楽を豪華衣装のダンサーたちが奏で、回転を終えたデコレーションのてっぺんでは、オードリーがにっこり微笑む。
衣装は宝塚もびっくりのキンキラキンだし、ダンサーは大勢で皆美人、踊りも「ブロードウエイメロデイー」に比べて格段に揃っており、キレもある。
観客から見えやすいように、ダンサーたちが配置される階段は高く、急に、というのもジーグフェルドの演出。
一方でスターの座を奪われたアンナは夫のもとを去る。
のちにジーグフェルドの再婚を新聞で知り、お祝いの電話をかける。
この時のルイーゼ・ライナーの演技がよい。
ドイツに生まれたユダヤ人としてハリウッドで異色の経歴を生きた女優であるルイーゼの悲哀が感じられるかのような演技だった。
開巻2時間を優に過ぎてから、マーナ・ロイが二度目の妻役として登場。
最後までジーグフェルドを励まし、株の暴落で破産してからは自ら舞台に復帰し夫を支えた妻を演じている。
パウエルとマーナはすでにMGMの黄金コンビとして「影なき男」シリーズで夫婦探偵を演じており、息の合ったパートナーぶりが見られる。
ジーグフェルドの自伝映画としてほぼ実話に基づいた作品のようで、生前ジーグフェルドに関係のあった俳優(ウイル・ロジャースなど)が実名で出ている。
ここら辺はバックステージものそのものである。
一方で、豪華絢爛ぶりもいよいよ盛んになった作品でもあり、見物としては舞台の豪華ぶりが一番の見どころではあった。
1936年作品にしてこの盛り上がりぶり。
MGMミュージカルよ恐るべし。