長野市でルイス・ブニュエル特集を観る

ルイス・ブニュエルというスペインの映画監督がいた。もう死んだ。

サルバトール・ダリなどと「アンダルシアの犬」という短編映画をフランコ政権下で撮り、当時の右翼にスクリーンにペンキを投げられる。
その後の「黄金時代」ではカトリックをコケにし、スペインにいられなくなる。
1950年代をメキシコで映画を撮って過ごす。

祖国スペインで再び映画を撮るのは1961年になってから。
その作品「ビリディアナ」はカンヌでパルムドールを受賞するも、スペイン、イタリアでは上映禁止とされる。晩年は「昼顔」「哀しみのトリスターナ」などを発表し、ヨーロッパの女優たちはこぞってブニュエルの作品に出演したがった。

今回、そのブニュエル作品から5作品を特集上映したのが、長野市の長野相生座・ロキシー。
長野市の権堂商店街に位置する老舗の映画館だ。

おじさんははるばる2時間かけて長野市へ。
相生座は3スクリーンを擁する今時のシネコン風だが、外観といい、上映作品といい、生き残っている名画座そのものだ。

感じのいい女性二人が迎えてくれる。暖かいほうじ茶を出してくれるのに驚く。
聞くと、デジタル中心の上映だが、映写機もあるとのこと。また、今時のフィルム上映は映写技師不要で、オートマチックにできるとのこと。
今回のブニュエル特集は、配給会社が新たに買い付けたもので、デジタル上映とのこと。集客はよいとのこと。

ロビーには、上映作品の手作りPOPなどが飾られており、女性の運営らしく賑やか。
映画青年チックなこだわりというより、今の映画の流れに前向きに乗っている感じがする。
話している間にも、高齢者のカップルなどが、別のスクリーンの上映作品に入場してゆく。

さて、今日のブニュエル特集は「ビリディアナ」。
聖女のような尼僧が、おじさんの別荘に投宿してから巻き込まれる不条理に近い世界の物語。
ブニュエル永遠の個人的こだわりである、女性の足、靴などへのフェティシズムを惜しげもなく再現。
リンゴの剥いた皮、乞食、不具者(今回は女性の小人)、そして聖女の如きヒロインは、ブニュエル世界でよく見る景色。
それらを惜しみなく再陳列し、後半でしつこいくらいに権威を愚弄しまくった作品。
愚弄された権威は、キリスト教。
ラスト、髪を下ろして、新しい男主人の部屋を訪ねたビリディアナの姿は、聖女から女に堕ちた、というかブニュエル的には昇華した姿なのか。

メキシコ時代に営々と築いてきた、ブニュエル独特な人間味のある描写の集大成でもあり、後年の破綻的な反権威描写の気配も感じさせる作品。

ブニュエルはこののち「昼顔」「哀しみのトリスターナ」で、堕ちた(昇華した)聖女の姿を描き、最後のまとまった作品とし、そのあとは「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」「自由の幻想」とひたすら不条理で反権威のエピソードを並べた破綻を超えた境地へと到達したのだった。

投稿者: 定年おじさん

1956年北海道生まれ。2017年に会社を退職。縁あって、長野の山小屋で単身暮らしを開始。畑作り、薪割り、保存食づくり、山小屋のメンテナンスが日課。田舎暮らしの中で、60歳代の生きがい、生計、家族関係などの問題について考える。60歳代になって人生に新しい地平は広がるのか?ご同輩世代、若い世代の参加(ご意見、ご考察のコメント)を待つ。

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