大正11年に芝居小屋として発足したという映画館、塩尻東座で「勝手にしやがれ」(1960年 ジャン=リュック・ゴダール監督)を上映するというので出かけました。
10時上映というので、余裕をもって8時に山小舎を出ました。
山小舎から塩尻へ行くには、和田峠を越えて諏訪地方へ下り、さらに国道20号線で塩尻峠を越えなければなりません。
直線距離的には上田へ行くのと同程度ですが、峠を二つ越えなければならなく心理的な距離感があります。
上田地方の端っこの山小舎と、塩尻・松本地域とでは、間に諏訪地方を挟んだ遠方のイメージなのです。
この日は雨模様。
6月を目前にして、セーターを着てちょうど良い肌寒さです。
別荘地から和田峠方面へ向かいます。
ところどころ霧が路面に立ち込めています。
中山道最大の難所といわれる和田峠には現在、新和田トンネルが開通し物流に貢献しています。
有料だったトンネル通過料金が無料になりました。
トンネルをくぐり諏訪地方に出ても天候は変わりません。
山々から霧が立ち上っています。
下諏訪の町をかすめ、岡谷に入り国道20号線に出ます。
岡谷からは、諏訪湖を背景にして国道20号線を塩尻峠へ向かいます。
勾配、カーブ的にはきつくはない峠道ですが、県内有数の大動脈路線として交通量は常に多く、また車両はスピードを出す傾向にあります。
ゆったりした運転ぶりが特徴の長野県のドライバーですが、都会のようにひたすら飛ばしたがるポイントも各所にあり、国道20号線塩尻峠付近もその一つです。
国道20号線で塩尻峠を越え、塩尻の街が遠望されてくると20号線の終点の交差点に至ります。
右折するとそこからは19号線、松本方面です。
塩尻市街は左前方なので直進するか左折するかです。
ここまでの所要時間は約1時間。
10時まで時間があるので、先に塩尻農協の直売所へ。
狙いはサツマイモの苗です。
サツマイモの苗は、山小舎に近い茅野や上田の直売所では売り切れだったり予約制だったりして入手できていません。
苗の種類と量が多く、また収穫期には多種多様な野菜が出そろう塩尻の直売所は山小舎おじさんのお気に入りで、塩尻に来た時には寄るようにしています。
期待通りにサツマイモの苗を購入。
ついでに丸ナスなどの珍しい品種の苗を2,3仕入れました。
寄り道のせいか東座到着は結構ぎりぎりの時間でした。
映画館の裏には結構な広さの駐車場があります。
続々と車両が集まってくるので驚きます。
シニア料金1,200円で入場。
モギリには支配人で映画コラムニストの合木こずえさんがいました。
合木さんは先代支配人の娘で、女優を目指し上京、その後、映画配給関係の仕事に就き東京で暮らした。
塩尻に戻ってからは、自分で企画した番組を東座で上映し始め、紆余曲折をへて現在に至る。
現在のラインナップはいわゆるミニシアター作品が主流。
そこに支配人のセンスを感じる。
現在の観客に現在進行形の作品を提供できる、というセンスを。
一方東座は昭和40年代の映画斜陽時代に、ダンスホールと喫茶店だった2階をピンク映画専門館としてリニューアルし現在に至っている。
ピンク映画のポスターや「大蔵映画」の看板文字。
かつての街中ではよく見られたものだが、現在こういった景色が残っている場所は東座を含めて国内に何か所あるのだろう。
飯田橋の駅前、ギンレイホールの隣にあったピンク専門館はいつの間にか閉館した。
上野の専門館もなくなったと聞く。
何年か前、偶然通りかかり、東座を〈発見〉した山小舎おじさん。
軽トラを止め、ひたすらこの景観を記憶とスマホ画面に留めたものだった。
「ひまわり」のデジタル版を上映中と知り、改めて鑑賞に再訪してから、館内に入るのはこの日で2度目。
4,5人かな?と思っていた観客数はみるみる増え、平日の10時上映ながら20人を優に超える集客。
長野の映画館で身近に人の気配を感じながらの鑑賞は初めての経験となった。
思わぬシーンが映るたびに声を出してリアクションするお客が一人おり、まるで昭和の時代の映画館客のようでひたすら懐かしかった。
1960年のパリの〈ヌーベルバーグ〉と2022年の信州塩尻の〈観客〉との接点を確認するかのような人間らしい反応だった。
「勝手にしやがれ」は画期的な作品だった。
時代と旬な俳優の奇跡のような出会いがそこにはあった。
この映画については日付を改めて述べてみたい。