シネマヴェーラでサッシャ・ギトリ特集

シネマヴェーラ3月の特集はサッシャ・ギトリ。
生涯30本ほどの映画を監督するが、リアルタイムでの日本輸入は2本ほどしかなかった。
ただ輸入されたうちの1本である「とらんぷ譚」(1936年)は30年代のフランス映画を語る際によく登場する作品であった。
今回はギトリの特集から2本を見た。

シネマヴェーラのパンフより

「あなたの目になりたい」 1943年  サッシャ・ギトリ監督主演  フランス

ギトリ映画初体験。

若々しいファッションに身をつつんだマドモアゼル2人が展覧会の会場へ入ってゆく。

ぴちぴちして魅力的なマドモアゼル(ジュヌビエーブ・ギトリ)。
そこに出てくるのが初老で恰幅のいい彫刻家(ギトリ)。
その姿、若い娘には釣り合わない。

初老のエロ爺の若い女への執着?
もしくは若い娘によるパトロン狙いのパパ活?

恋の都フランスだからその主題もありなのだが、当時60歳に近いギトリが主人公を演じる姿に驚く。

監督で演技者としても定評のあるギトリゆえに許されるのか。
同じく監督主演を務め、気に入った(多くは愛人の)女優を相手役に抜擢した、エリッヒ・フォン・シュトロハイム、チャーリー・チャップリン、そしてウッデイ・アレンの〈マイナス面〉を思い出す。

シュトロハイムには徹底した己を含めた現実への視線があった。
チャップリンには体を使った常人ならぬ表現があった。
それらは、仮に己の映画を公私混同の場としていたとしても一見の価値のあるものだった。
が、果たしてギトリ映画にそれはあるのか。

セリフ回しは滑らかだが、動かなくなった太めの体躯と隠せない年齢はすでに主演者のそれではなかった。

シネマヴェーラ特集パンフより

それでも映画の前半。
恋に落ちた娘を邪険にする彫刻家の姿に、人間の情の不可思議さ、深さを表現していいるのか?さすがフランス映画!と感心させる。

それが早とちりだったと判明するのが、彫刻家が失明を予期し、娘に結婚をあきらめさせる親心だとわかって迎えるハッピーエンド。
これではハリウッドメロドラマと同じではないか。

「とらんぷ譚」 1936年  サッシャ・ギトリ監督主演  フランス

1936年の作品。
主演は同じくギトリ本人だが、まだ50代前半で、また全編にわたっての出演ではなく、少年時代や青年時代の主人公をそれぞれ子役や若い役者が演じるので無理なく見られる。

特集パンフより

主人公のナレーションによる回想シーンがほとんどを占める。
この回想シーンの処理がテンポがあっていい。
短くカットがつながれ、演技もパントマイム的で無駄がない。
さりげないギャグにはペーソスや人生の苦さが加えられ、ギトリのセンスの良さを感じる。

当時の結婚相手ジャクリーヌ・ドゥリュバックが魅力的に撮られており、とっかえひっかえのファッションやコケテイッシュな笑い顔に「あなたの目になりたい」のジュヌビエーブ・ギトリを思わせる。
ギトリの好みはいくつになっても、こういった若い魅力的な女性なのだろう。
チャップリンも10代の少女が好きだったように。

右:サッシャ・ギトリー、左:伯爵夫人役の老女優

快調な作品なのだが、回想シーンでモナコ時代の話の時の主人公のナレーションで「ここにはあらゆる人種が集まる(中略)雰囲気がいいのは日本人がいないせいだろう」みたいなセリフがあった。
背景が白くてスーパーの日本語が判然とはしなかったものの。

1936年当時は戦前で、枢軸国は悪の対象。
ドイツには面と向かって言えないので、影響の少ない日本を悪者にしたのか?
あるいは人種差別か?

戦後にはすぐ壊れるおもちゃを裏返すとMADE IN  JAPANの文字が現れ、それをラストシーンとしたイギリス映画(「落ちた偶像」1948年)などもあり、直接的間接的に日本(日本人)を揶揄した外国映画が各時代に見られた。

自分の作品のギャグのために外国(人)を茶化すようなことは好きではないのでここで一気に醒めてしまった。

コメデイアンがその毒として事象を茶化すことはあるが、その選択には本人の立ち位置が表れる。
ロシア生まれで、フランスでは己の才能1本で演劇映画でのし上がってきたギトリの〈毒〉のこれは一つなのであろう、時代背景もあったろう、がしかし・・・。

そういうわけで、この日以降ほかのギトリ作品を見る気力をなくした山小舎おじさんでした。

ウッデイ・アレン作品のように、自虐ネタやオチョクリをしゃべりまくる主人公が、若く魅力的な女優を横に、苦いギャグを連発する映画が好きな人はどうぞ。

投稿者: 定年おじさん

1956年北海道生まれ。2017年に会社を退職。縁あって、長野の山小屋で単身暮らしを開始。畑作り、薪割り、保存食づくり、山小屋のメンテナンスが日課。田舎暮らしの中で、60歳代の生きがい、生計、家族関係などの問題について考える。60歳代になって人生に新しい地平は広がるのか?ご同輩世代、若い世代の参加(ご意見、ご考察のコメント)を待つ。

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